和紙で包む折形は、おもてなしの心を形にする所作

日本の伝統文化には おもてなしの心を形に するものが多くあります。 和紙で包む折形は、おもてなしの心を形にする所作 と言えます。

たとえば相手にものを差し上げるとき、ちょっと何かに包んで手渡すという習慣。相手を想い、自分の気持ちを丁寧に折り込んで包む、日本人がとても大切にしてきた素敵な習わしです。

折形 (おりがた)は、お祝いやお礼、心づけの包み、おもてなしなどのシーンで使われる様々なお礼をかたちにしたものとされます。

和紙で包む折形は、おもてなしの心を形にする所作

武家の作法として伝わった「折形」

現代広く普及している折り紙(おりがみ)の源流であるとされる「折形」は、和紙を折り目正しく折り、物を心を込めて包み渡す由緒正しき礼法の一つです。

「折形」は、平安時代より公家礼法として受け継がれ、武士が権力を持ち始める室町時代に入ると、室町幕府三代将軍の足利義満による礼法の定めで、格式ある武家の作法として取り入れられるようになります。

武家の礼法を記した『貞丈雑記』には「心を尽くして取り調えるを、馳走とも奔走ともいう」と書かれています。見えないところに時間をかけて、相手のために心を込めて尽くすことを意味しています。

食事の準備の為に走り回る、おいしい食べものを準備しておもてなしをすることを「ご馳走」というように、贈りものも心を尽くすこと、すなわち自分の時間を使って相手に贈ることがまず第一で、大切なのは物ではない、という考え方です。丁寧に折り込んで包む折形とは、その気持ちや行動が形になったほんの一部なのです。

江戸時代に入ると、和紙が安価に大量に出回ることで折り紙の文化が盛んになり、儀礼儀式としての「折形」と遊びとしての「折り紙」が区別されるようになります。

それまで特別なときに使われていた「折形」は、庶民の生活に溶け込んでいき、冠婚葬祭に配る赤飯や餅に添える塩やきな粉を紙で包んで添える、という使い方をするようになりました。昭和生まれの方であれば、小さい頃に目にしたことがあるかもしれません。

実はこの「折形」は、昭和初期くらいまでは女学校などで作法として身につけるべく授業に取り入れられており、各家庭で必要なときに自分で作っていました。しかしながら第二次世界大戦終了後、急速な欧米文化の普及に伴って学校教育から折形礼法はなくなってしまいました。

それ以降、デパートや百貨店なので贈り物を送る際、包装して熨斗紙を貼り、相手先に送り届けてくれる簡易的なサービスが一気に普及します。また冠婚葬祭で使われる祝儀・不祝儀袋やポチ袋は既製品として工場で大量生産されるようになりました。

現在ではコンビニエンスストアや100円ショップなど街のあらゆるところで手軽に手に入るようになり、それに伴って礼法としての手作りの折形は急速に衰退していったのです。

和紙で包む折形は、おもてなしの心を形にする所作

折形の和紙の選び方と包みの基本

時の流れとともに、忘れ去られていた「折形」ですが、近年の和紙の人気上昇とともに、手づくりの折形の販売や折形を教える教室などを中心に注目を浴びています。

和紙特有の品の良さと、「折形」の見た目の美しさや、さらにその歴史にあるおもてなしの心や相手に寄り添う気持ちを伝えるのにぴったりのアイテムととして再認識されたのでしょう。

では「折形」に使われる和紙は、どのようなものが適当なのでしょう。みなさんもご祝儀袋を選ぶときにちょっと悩みませんか、何かの参考になればとよいかと思います。

「折形」は、贈り相手との関係と品物の格に応じて、和紙の種類と大きさを階級別・目的別に明確に使い分ける厳しい決め事があります。これを紙の格といい、格上から順に、檀紙、奉書紙、杉原紙とあります。

  • 檀紙(だんし)
    楮(こうぞ)を原料とした和紙で、厚手で和紙の表面に凸凹したシボのような漉きめ跡が出た厚手の楮紙で、独特の風合いがあります。昔は檀(まゆみ)を原料としていた為、檀紙と言います。高級感のある和紙で、古くから珍重され贈答用に使用されます。
  • 奉書紙(ほうしょし)
    折形等の正式な儀式に使用する和紙です。奉書とは、室町時代に足利将軍が発した公文書を言い、奉書に使用した紙を奉書紙と呼びました。本来は楮を原料とした和紙ですが、最近は機械漉きなども多く様々です。祝儀不祝儀の包みに広く使用される和紙です。
  • 杉原紙(すぎはらし)
    楮を原料とした和紙で、文字書きに多く使用されます。奉書紙に似ています。大杉原、中杉原、小杉原の大きさがあります。儀式などで用いられる公式な和紙です。

江戸時代、折形を施した御朱印状のような特別な公文書には、楮でつくった分厚い檀紙を使っていました。このような公文書を正式には「折紙」と呼び、「折り紙付き」の語源ともなりました。

また、格式を重んじるため分厚くしている御朱印状はとても墨を吸収します。濃い墨をたっぷりつけて書かなければ文字を書くことができず、そこから濃い墨で書いた辞令を「お墨付き」というのです。

「折形」の包みの基本は、流派により多数ありますがどれも陰陽説に基づいています。植物は天に伸びる枝ものを「陽」、地に広がる草花を「陰」とするため、また包みの折りの数も、枝ものは陽の数とされる奇数回、草花は陰の偶数回で折ります。

順番は「天が先、地が後」「左が先、右が後」となります。具体的には、慶事の包み方では右開き、後ろ側の上下の折り返しは慶事では下からの折り返しが上側に重なるようにします。

例えば結婚祝い包みは、最上級の純白の檀紙を使い、吉の形を現す右前で重ね、匂い(色紙)には祝いの 象徴、紅色を重ねます。水引は左に銀、右に金を使い、中身と相手との関係に応じて最上位から9本、7本、5本と格を使い分けます。

結び方は「結びきり」と呼ば れる二度と解けない形で結びます。折形は厚みのある包みでふくよかな和紙の温かみと品格を感じさせるのがよいとされます。また、紙幣を包む際には、直接外包みに紙幣を入れず、内包みに紙幣を入れて、外包みに内包みが入れます。

いかがでしょう。贈りものをするときに最も大事なのは、心を込めて自らが贈りものを選ぶこと。そして、先方におもむきお祝いの言葉を伝えることです。お祝いの想いを伝えることが目的で、ついでに贈りものをお渡しする。それくらい口頭で伝言すること、直接相手に伝える口上を述べることを昔の人は大切にしていました。

既製品のポチ袋や祝儀袋にも、素敵なデザインはたくさんありますが、相手を想い、和紙から選び、心を込めて折っていくというのもなかなか良いのではないでしょうか。教養のある人は、折形を見ただけで中に入っているものが分ると言われます。言語を使わず、お贈りする相手へのこころを形にあらわす、日本の美の典型としてこれからも大切にしていきたいものです。